手のひらの温度




学校が近ければ、会ってしまう確立も高いわけで。
お互いツナん家に行く途中だったのか、黒い髪を高くくくった少女は
俺を見つけて、ふんわりと微笑んだ。

「あ、山本さんもツナさんの家に行くんですか?」

そう言ってうれしそうに微笑む少女に、うん、と笑って頷いて返す。
彼女が嬉しそうにしているのは、思い人に会えるからで。
けして俺に会ったからではない。
ああ、おれ自己傷心中。めめしいな。
もしかしたら会えるかもなんて、思っていたことや、
偶然でなく待っていた、なんてこと。
会ったとたんに、柄にもなく心臓がうるさく動き出した事なんて。
一直線な彼女はきっとみじんにも気づいてやしないだろう。
やっぱ似合わないよな、こんなの。
でも自分だけドキドキしているもの面白くないんで唐突に
「走って行かないか?」と誘ってみた。


「いつにもまして突然ですね」


呆れながらも笑顔でいいですよと、言ってくれた彼女の手を引いて走っていく。


「じゃあ、行くぞ!」

「や、山本さん!手、手が!」

「この方が早いだろ?」


今ならば俺の事を突拍子もない奴だと、笑って許してくれる。
この手のひらの熱の意味も知らないまま。
無意識に掴んでくれる、一回りも小さな手がこの手のひらを。
だから、どうか。
今はまだこの手のひらの熱に気づかないで。


「暑いなー」


これから夏が始まろうとしている。





初山ハル