恋に落ちて
ずいぶんと懐かしい道を歩く。
ここに来るまで(過去の自分に呼び出されるまで)この道があったことすら覚えていなかったというのに。
風景を見たとたん懐かしいと思うなんて。ここは相変らず変わっていない。
その事実がどうしようもなく嬉しかった。
オレンジ色をした町の中でオレの影と彼女の影が細長く伸びた。
足音だけしか響かないこの空間も不思議と居心地が悪いわけではない。
土と小石の混じった道は歩きにくい道ではあるが、これが彼女と共有できる世界のひとつであるなら、
とても尊いものだと思った。
一歩前へ進むたびにじゃり、と石が擦れる音がする。
たった10分間の経過を早く感じることが多かったけれど、今ばかりはひどくゆっくり過ぎているような気がした。
足元の石ころを遠くへと蹴る。
つま先にはじかれて跳ね上がるそれを見送って、なんとなく笑みを溢してしまった。
ふ、と小さな笑い声が風に流れる。彼女が不思議そうにオレを見て、どうしたんですか、と静かに言った。
「いや、なんでもないです」
「何もないのに笑ったんですか?」
「そういうわけでもないのですが」
「?・・・変な人ですねぇ」
ぱちぱちと繰り返される瞬きに睫毛が揺れる、不思議そうに尖らせた唇、彼女のすべてが橙色に染まる。
彼女の向こう側に沈んでいく太陽が綺麗で、まぶしくて、オレもまた目を細める。
ゆらりゆらりとオレの中で渦を巻くこの不可思議なものは一体なんだろう。
短い時間だけど彼女の近くにいられること。
加速してゆくこの想いは一口に「好き」だとまとめられるほど単純なものではないのだ。
時々すごく息苦しくなる。
顔を歪めるほど悲しいときもある。
だけど確かなことは一緒に過ごす時間がひどく穏やかなこと。
誰よりも幸せになってもらいたいと望む。
守りたいと自分の意思が動く。
この感情に、なんと名前をつけようか。
無知なオレの数少ない言葉たちではどうにもそれを表現しきれない。
彼女ならこれをどんな言葉で表すだろう。
「ねえ、ランボちゃん」
「なんですか?」
「ランボちゃんの髪は、相変らずクルクルしてますねぇ」
ふわりと笑みを浮かべながらオレの髪の毛に手を伸ばす彼女を見て、反則だ、とこっそり思う。
胸がいっぱいになるような、はち切れそうになるような、大きく膨れあがるこの気持ちを愛しいと言うのだろうか。
オレの髪をすく彼女の指の動きにすら、全神経を集中させてしまう。
優しくやわらかい、その視線を独り占めしたいと願うわがままを許してほしい。今だけでも構わないから。
天然パーマっていいよね。っていうお話です(嘘つけ)。