息継ぎの仕方






突然、ボンと鳴るバズーカの音と共に俺はどうやら煙にくるまれて十年後に来てしまったらしい。
いつもと様子が違うのに気がついたのは、こちらに呼ばれるたびに騒がしいはずの賑やかな声も聞こえてこず
(呼ばれるたび、そこはいつも賑やかだった)
柔らかな感触と人の温もりに包まれている事に気がついたから。
十年前の俺だったはずの身体を抱えるように眠っている人の腕は、突然大きくなった背中を抱えきれず、
スルリと背中を滑るように小さな音を立てて床に落ちた。


部屋の隅にバズーカが不自然に転がっているところを見ると、どうやら寝ぼけてどこかにぶつけ誤射してしまったのだろう。
どこか懐かしく感じる部屋は、彼女の部屋だった。
至近距離にある彼女の寝顔を見つめる。
自分の両手にすっぽりと納まってしまいそうな小さな顔に、長い睫毛が頬に影を落とす。
桃色の頬に、薄く開けられた唇、彼女の呼吸が暖かい。
昔はこうして彼女の温もりに包まれて眠っていたことを思い出す。
彼女が昔いつもそうしていてくれていたように、腕を彼女の背中に回した。


暖房もなにもつけていない部屋に、凍える空気が充満する。
彼女を包む感触だけが柔らかい。
目を閉じて、俺の左腕にひっつく彼女の右腕みたいに自分の頭から心臓からつま先から感情までぜんぶ、
彼女と繋がればいいなあと考える。
チクチクと鳴る時計の秒針の音がやけに耳に付いた。
一分、二分と、時間が過ぎていくのを確認するたび体の奥が痙攣する。
震える、痺れる、電流みたいに、加速する熱がぐらりぐらり、ゆらめいて俺を惑わした。


「ハルさん・・・」


自分の声が鼓膜で振動する。じわじわ広がっていく音。
そっと目を閉じる。まぶたの裏側は真っ暗だった。
そうっと彼女の手のひらに自分の手のひらを重ね、それから何も動かなくなって、
何も聞こえなくなって、ただ、二人分の体温を噛み締めて忘れないように記憶へ刻んだ。



駆け巡る思考と理性がぶつかって酸化する。錆びていく。
始まりも終わりも永遠も共有したくて、規則的な時の流れを逆流するすべを知りたくて、
本当はもうずっと前からすべてが彼女で出来ているのに、込み上げるものが大きすぎて消化できない。
言葉の束縛が怖くて、もどかしくて、苦しくて、呼吸の仕方も忘れてしまいそうで、
見境なく溺れていたくて、惨めで、悲しくて、胸が軋んでる。
そうして俺のたった五分間の想いは煙と共に消えてゆく。



「ハルさん・・・」







好きです、と、私の耳元で響いた彼の声にいつまでも気づかないふりをした。
過去が、未来が、世界がもっと、狭ければ良かったのに。
本当は私だって彼を愛したい。









ランハルは切ない。