できれば、





「寒いですね」



彼女の吐き出す息が白い。気がつけば季節はもう冬になろうとしていた。
誰に言うでもなく、確認するようなハルの呟いた小さな言葉に唐突に思い立つ。



「なぁ、かけっこしようぜ」

「かけっこ、ですか?」

「そ、かけっこ」



かけっこというどこか子供っぽい響きに、言った自分のほうがどきんとしてしまう。
いつからかけっこじゃなくなったんだろうな。
小さな頃は間違いなくその可愛らしいものだったのに。
ハルはきょとんとかけっこ?と首を傾げていた。
きっといまグルグルと言われた意味を考えているのだろう。



「あの、でも、ハルじゃあ山本さんの相手になりませんよ?」

「いーから、いーからほら。よーい、」



ひとたび「よーい」の掛け声が掛けられれば、スタートダッシュのフォームをとってしまうもので
ハルはわたわたしながらも視線を真っ直ぐに向けていた。



「ドン!!」



掛け声とともに眼前にさあっと広がったのはただっ広いだけの地面だけでなんだか最高に気持ちが良かった。
いつもならあるはずの物も人の背も何もない広がる世界に風を受けながらただ走る。
強いだとか弱いだとか、そんなしがらみなんて気にしなくていい。ただ走るだけの純粋なかけっこ。
ああ昔はずっとこんなことを毎日毎日してたんだな。



「や、やまもとさんっ!」



はあはあと荒い呼吸音に交じって後ろの方から自分を呼ぶ声がきこえる。
うわ、しまったと振り返れば、ゴールってどこですか?
と切れ切れに尋ねられそれがないことにはじめて気付く。


「・・・やまもとさん」

「じゃあ、疲れるまでな!」


苦しそうに声をもらすハルに苦笑して、そう言ってみたら本当に目をしろくろさせてしまった。



「うそうそじょーだん」



と言って笑う。ただ俺はハルと走りたかっただけだから。
だから本当にそれだけで他なんて考えてもいなかったから見当もつかなくて、
とりあえずハルのそばまで駆け寄って手を引いてみた。



「かけっこはいいんですか?」



と聞いてくるハルにうん、まあ、気にしない気にしないとかなんとか。
勝手でごめんな、と言えば楽しいですね、と健気に笑ってなんとも言えず可愛かった。







ずっとそのまま駆けていて。

   できれば俺の、俺のそばで。










山本は青臭い。